科学技術振興の秘策−科学者、技術者の年収1億円1万人計画


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I.科学技術を振興するには

1.従来の科学技術振興の問題点

 従来の科学技術振興の問題点は、研究費(金)や研究設備(物)に予算を割くが、科学者、技術者(人)の社会的な地位を向上させるために十分な予算を、科学者、技術者に直接投入していなかった点にあると考える(人への直接投資の欠如)。


研究費(金)
研究設備(物) 科学者・技術者(人)

 そのため、科学者、技術者など理工系の地位が低下し、理工系離れが生じてしまった。一例を挙げれば、理工系の最上位校の偏差値は、国立医学部の下位校以下になってしまった。

東大、京大、東工大、早稲田、慶応、国立大上位校の理学部・工学部
 
< 国立大下位校の医学部

 もちろん、医学部に進学して、医学研究者になるという進路もある。しかし、医学研究者が人気であることが、理工系離れの原因とは考えにくい。そうではなく、医師が人気であり、優秀な理系が、理工系の技術者、研究者等から医師へと流出したことが原因である。このような現象は、特に近年顕著になっている。

 模式図を示すと以下のようになる。


将来、立派なお医者さんになるのよ。

医師。社会的地位が高い。

将来、何になろうかなあ。

成績が良いなら、理工学部はもったいないぞ。企業の技術者になると、お父さんのように、なってしまうぞ。医学部に行きなさい。

理工系の研究者、技術者

 医師は重要な職業であることは言うまでもない。しかし、資源のない日本は、科学技術立国の下、バランスよく広範な分野の科学技術を振興しなければならない 。もちろん、医学の発達にも、物理、電気、情報、機械、薬学、化学、生物など、広範な基礎科学が必要である。

 また、文理格差の問題によっても、理系離れ、理工系離れが進行している。

 模式図を示すと以下のようになる。


この子は将来は偉なってほしいわ。

国会議員、会社社長、高級官僚(公務員)など、ほとんどが文科系である。

理科を勉強しても偉くはなれないってお母さんが言っていたなあ(理科離れ)

公務員なら理系は出世できないから、止めた方がよいぞ。お父さんは、博士号を取得した国立研究所の研究者(公務員、技官)だが、お母さんは、お父さんの出世しないことや給料の低さを、いつも嘆いているだろ。今は、博士が昔より多く、博士(ポスドク)の就職難 が生じている。お父さんのように就職できるかどうかも不明だよ。博士の自殺者も多い。子供たちに博士になれなんて言えないよ。学部卒業から5年かかるなら、医師の方がずっとよい。

理科系の研究者、技術者

 科学技術の振興には、科学者、技術者の社会的な地位を引き上げ、優秀な人材の理工系離れを防ぐことが重要である。また、科学技術の発展は、個の力によるものが大きい。全般的なレベルの底上げとともに、著しく優れた個人の保護が重要である(異能、異才の保護)。

 研究を行なうのは、研究費・研究設備ではなく人である。科学技術の振興には、研究費(金)や研究設備(物)への投資と、科学者・技術者(人)への直接投資のバランスが重要なのである。

 研究成果を生み出すのはあくまでも人である。設備と研究費があっても、科学者、技術者がいなければ、研究成果は生まれない。

 従来の科学技術振興策は、科学者、技術者の社会的な地位向上に十分な予算を投入する(人への直接投資)という側面を軽視している。

2.科学技術予算の効率性の重要性(政府の失敗の防止)

 日本の科学技術の振興のためには、科学技術予算の効率的な投資が重要である。もちろん、研究費の額は多いほうが少ないよりは良い。しかし、研究費を増やせば、自動的に日本の科学技術水準が世界最高になるわけではない。

 研究費は多い方が少ないよりはよい -> しかし、研究成果を生み出すのはあくまでも人である。

 科学技術の振興には、科学技術予算の効率性が重要である。官が行なうものであるから、公共事業と同じく、効率性が悪い危険がある。

  箱物の建設等も重要なことはある -> しかし、研究成果を生み出すのはあくまでも人である。

 政府の非効率(いわゆる政府の失敗)については、多くの注目を浴びているが、科学技術の振興の文脈では、ほとんど注目されていない。科学技術の振興というと、良い目的であることから、効率性についてのチェックが甘くなっているのではないだろうか?

 現在の日本の状況は、研究費(金)や研究設備(物)への投資と、研究者、技術者(人)への直接投資のバランスが崩れている。現状では、科学技術の振興には、科学者、技術者への直接投資が最も効率が良いと考える。科学者、技術者の社会的地位の向上への投資はその一例である。


研究費(金)
研究設備(物) 科学者・技術者(人)

3.科学技術振興の秘策 − 優秀な科学者、技術者の年収1億円1万人計画

 科学技術の振興の秘策は、科学者、技術者の社会的地位と待遇の向上に、多額の国家予算を投入することである。

 たとえば、優秀な科学者、技術者を毎年1万人選び、1人1億円を与えることが考えられる(優秀な科学者、技術者の年収1億円1万人計画 )。この総額は1兆円にしかならない。日本の科学技術予算(5年間で約25兆円を予定。ただし議論あり)を若干増額すれば、十分に可能な額である。

 この投資の科学技術振興に対する効率性は、多くの研究費や研究設備への投資を上回るであろう。


将来、お父さんのように、年収1億円の社会的地位の高い立派な科学者・技術者になって、幸せになるのよ。


理科って面白いな。将来は科学者・技術者になりたいな。父も母も、成績が良いのなら、医学部ではもったいないから、理工学部に進むように言っている。


よし。日本でも頑張れば認めてくれる。どんどん学会に論文を発表するぞ。

 すなわち、以下のような効果を発揮する。

 (1) 研究者、技術者の社会的な地位が向上する。これは、優秀な子供たちを、科学者、技術者に向かわせ、理系離れ、理工系離れ理工学部の凋落傾向を防ぐのに大きな効果を発揮する。特に、若い技術者、研究者が受賞しやすくすれば、科学技術振興の効果が大きいであろう。

 (2) 研究・開発への取り組みを促進させる。後述のように、選定の対象に、論文や特許を基準にすることにより、研究者、技術者が論文や特許を積極的に出すことを促進する。研究者、技術者の研究開発とその公開への取り組みを促すことによる科学技術振興の効果は大きい。

 (3) 日本の学術誌の地位を向上させる。後述のように、選定の対象に、日本の論文を指定すれば、優秀な論文は、英語で書かなければならないという風潮をなくし、学問における日本の学術誌の地位が向上する。日本の科学技術の振興に役立つことになる。

 (4) 優秀な人材の海外への流出を防ぐ。日本でも、優秀な科学者、技術者は、年収1億円への道があることは、優秀な人材が海外に頭脳流出する際の歯止めの1つのファクターになる。

 (5) 国が、研究者、技術者を本当に支援しているという実感は、研究者、技術者の日本を愛する心を増進する。日本の科学技術の振興には、思い切った政策が必要である。

 (6) 研究者、技術者がより研究に専念できるようになる。研究者、技術者自身には、お金や地位に無頓着な者も存在するが、その周囲の者はそうではないことが多い。研究者、技術者の社会的地位を向上させることは、研究者、技術者を雑事から解放し、研究に専念できる環境を作るのに役立つ。

 (7) 研究者、技術者を取り巻く社会的環境が総合的に良くなることで、研究者、技術者が研究がしやすくなる。

 (8) 国が、研究者、技術者に金銭的な支援をすることにより、企業の研究開発も促進される。1億円の受賞を目指して、研究者、技術者の士気が高まることは、企業に良い効果を与える。日本経済に好影響を与える。

 以上のように、優秀な科学者、技術者の年収1億円1万人計画は、科学技術の振興の秘策である。


経営会議:技術者のA君は、お金にならない研究ばかりしている。もっと会社の利益になるように、研究開発ではない、雑用をやらせたらどうか。
会社からの命令 --->

少しは会社の利益に貢献しろ。君を雇うことにより、会社は儲かっていない。大損なのだよ。研究開発ばかりしていないで、研究開発以外の雑用もしなさい。


もう少しで成果が出るぞ。雑用を言いつけられなければ、欧米より先に研究を完成させることができるのだが。
優秀な科学者、技術者の年収1億円1万人計画の実施


経営会議:技術者のA君は、論文を投稿し、年収1億円になったそうだ。もっと自由に研究をさせてあげたらどうか。
会社からの命令 --->

フェローとして君を雇うことにより、君に自由な身分を保障する。研究開発以外の雑用は必要ない。会社の名声を高めるため、君に期待している。


研究に専念して、欧米より先に研究を完成させた。基本発明で特許もとったぞ、日本の国益に貢献して、年収1億円をもらった日本に恩返しをしよう。子供にも、理科離れを防ぎ、理工系への進学を勧めるぞ。

 問題は、1万人の効率的な選定である。政府の失敗を避け、民間の力を最大限に活用するアイディアが必要になる。 

 そこで、1万人の選定に、民間の評価(学術論文と特許等)を活用するというアイディアが重要になる。民間で高く評価された人を、上から1万人選ぶことにより、政府の失敗を避けることができる。

政府の非効率性を防ぐには、民間の評価を利用することが必要だね。政府は民間の評価を増幅する黒子に徹するんだ。

 すなわち、政府は、民間が評価した報酬を、あくまでも「増幅」させる役割に徹するという新しい考え方が重要になる。これを、民間評価増幅法と名づける。政府の失敗 を防ぐ新しい手法である。

 たとえば、基礎科学については、学会の論文賞等を基準とすることが考えられる。

 たとえば、論文賞の受賞が、莫大なお金になるようにすれば良い。例を挙げると、大きな発見をした人が民間で賞金1000万円の最優秀論文賞を受賞した場合、政府から9000万円が与えられ、1億円に増幅されるようにする。

 国家予算の投入により、外国の論文誌ではなく、日本の論文誌が、優秀な日本人の論文を集めるようになれば、日本の学会誌や日本語の地位が飛躍的に高まるであろう。


日本の学界のレベルも随分上がったね。

欧米よりも、優れた研究が、英語ではなく、日本語で発表されることも多くなってきたよ。
世界の研究者が、日本の科学技術を学ぼうと、日本語を学び始めたそうだよ。


 応用技術については、職務発明の対価の額を参考にすることが考えられる。

 たとえば、発明をした人が職務発明対価2000万円を受け取ると、政府から8000万円が与えられ、1億円に増幅されるようにする。なお、職務発明対価の対象にならない、企業外の独立した技術者の場合には、その技術者が保有する特許のライセンス収入等を増幅すればよい。

職務発明で財をなす技術者も増えたね。政府がかなりの部分を払ってくれるので企業も喜んでいるよ。

 1万人をどのように割り振るかは色々なバリエーションがあるが、たとえば、科学者に4000人、企業内技術者に4000人、企業外技術者に2000人割り振るとする。この例では、科学者は、論文賞の賞金額が日本で上位4000番以内に入れば、年収1億円に達する。企業内技術者は、職務発明の報奨金が日本で上位4000番以内に入れば、年収1億円に達する。企業外技術者は、日本でライセンス収入が2000番以内に入れば、年収1億円に達する。なお、機械的に日本の中での金額の順位で行なうだけではなく、年収1億円の受賞暦、その他の貢献などを加味して順位付けをしてもよい。年収1億円の受賞をしたい者は、証拠として、論文賞や職務発明等の書類や、確定申告書等を提出することになる。

 そして、年収1億円となった1万人に選ばれた科学者・技術者には、金銭面だけではなく、研究の自由など様々な点で強力な支援をすることが、科学技術の振興のために重要である。

1万人に選ばれたことで、周囲の対応が良くなり、研究の自由が大きくなった。お金に困ることもなくなったので、アルバイトも止め、研究に専念できる。家庭環境も良くなり、研究の障碍になることもなくなったぞ。

 家族にケーキを買っていくぞ。賞は家に飾っておくぞ。子供も理系に夢を持つぞ。

 なお、政府の支出は、上記では、9000万円と8000万円になっているが、これは色々な額にすることができる。1億円をそのまま支出することも可能である。

 また、1万人に1億円ずつではなく、1位は100億円単位、ベスト10は10億円単位にするなど、1兆円の予算をどのように割り振るかには色々なバリエーションが考えられよう。いずれにせよ、優れた科学者、技術者を、日本国が十分に優遇することを強いメッセージとして示すことが重要である。

年収ランキング
1位 技術系企業の社長
2位
3位 技術者
4位
5位
6位 科学者
7位

年収ランキングに、科学者、技術者が入るなんてことがあったんだ。俺も、子供の頃からこういう世の中だったら、今の金融業じゃなくて、科学者、技術者を選んでいたかもなあ。

俺は、文系就職したが、理系出身だ。前からこういう世の中だったら、メーカーに就職したかもしれないなあ。理科系の製造業離れも、止まるんじゃないか。

II.科学技術の振興における政府の役割

 科学技術を振興する秘策は、莫大な国家予算を研究者、科学者、技術者に直接投資することである。

 民間の科学者・技術者の評価は、しばしば誤っており、完全からは程遠い。しかし、政府が民間よりも、科学者・技術者をより良く評価できるとは限らない。また、政府が独自に評価するのはコストがかかるし、競争原理が働きにくい点から、非効率となる危険がある。

 よって、政府が評価するのではなく、政府は、民間の評価を「増幅」させる役割にとどめるべきであろう。

まだまだ、民間にも埋もれた研究者はいるわよね。でも政府がそれを探すのは難しいわ。それを探していくのは次の課題ね。まずは、民間で評価された人の評価を政府が増幅するのね。でも、会社も、年収1億円の1万人に選ばれた社員がいると評判が上がるでしょ。だから、埋もれた研究者、技術者を発見するのに、会社も少しは熱心になるかもしれないわ。

 しかし、科学技術の振興について、政府の役割は大きい。民間では、利益の追求が重要なので、科学技術の振興に役立つからといって、多額のお金を費やすことは困難である。そこで、政府が、科学技術立国を実現するために、科学者、技術者に直接投資をするのである。

 科学技術の振興に役立つ民間の動きを、税制面等で支援していくことも重要である。たとえば、企業の研究開発については、優遇処置をとるべきである。

 企業が、研究開発(R&D)費用を削ることにより、短期的な利益を上げることを重視するようになるのでは、日本の科学技術の振興にマイナスである。研究開発(R&D)は、長期的な視野で行なわなければならない。政府は、企業が長期的な視野で研究開発活動ができるように、支援しなければならない。



経営会議:最近は株主もうるさくなってきていますし、いっそのこと、R&D部門を削減して、短期的な利益を上げましょうか。社長の成績も上がり、株主の配当も増えますよ。我々の役員報酬だって、上がるんじゃないですか。

社長:そうだなあ。政府が支援してくれれば、創業以来の技術を大事にする体質を捨てなくてすむのだが・・・。技術者のA君もこれでリストラだなあ・・・。

役員:一度失ったR&Dの風土を取り戻すのは難しいですからね。日本の国益にはなりませんが、背に腹は代えられませんなあ。私も、株主から突き上げられたくはないので・・・。

 政府の役割は大きい。民間の良い面と限界とを踏まえ、政府と民間が共同して科学技術の振興をしていくことが、日本の科学技術立国にとって重要となる。

III.科学技術予算の効率性 −政府の失敗を避けるにはー

 科学技術予算の効率性の問題は、日本の科学技術振興にとって、最大の問題である。効率性が悪ければ、国民の理解が得られず、科学技術予算を増額することは困難になるだろう。それは、日本の科学技術振興にとってマイナスである。科学技術予算の効率性が良く、科学技術への投資が日本にとって良い効果を生めば、予算を増額することについて、国民の理解が得られやすくなる。

研究開発予算に25兆円というけれど、本当に効率的に使われているのかしら。そんなことより、老人の福祉にお金をあててほしいわ。

でも日本が沈んだら、老人の福祉どころではなくなるわよ。せっかく税金を払ったのだから、効率的に使ってほしいわ。

 科学技術予算の効率性を保つには、科学者、技術者への直接投資や、企業の研究開発への減税等が有効である。逆に、設備(箱物)を作るとか、大規模プロジェクトを行なうというのは、有効なこともあるが、効率性が悪くなる危険もある。特に、先端技術のプロジェクトは、民間ですら見通しが難しい。

 科学技術予算の効率性の点からは、以下のようになるだろう。
 
1.効率性が悪くなりにくいもの A.科学者、技術者への直接投資
B.民間企業の研究開発への減税
2.効率性の評価が難しいもの 政府による科学技術研究費の支出
3.効率性が悪くなりやすいもの 政府による大規模プロジェクト、設備(箱物)の建設

 上記は、一応のもので、実際には一概には言えないだろう。効率性が高い設備(箱物)の建設もある。たとえば、多額の予算をかけて、日本が世界に先駆けて高度な観測装置を作る場合、日本だけでなく、世界の科学技術振興に対する貢献は極めて大きい。

 また、政府による大規模プロジェクトも、民間では困難なものは、国が行なうべきものもある。効率性が悪くなりやすいといっても、慎重に検討した上で、戦略的に必要なプロジェクトなら積極的に行なうべきであろう。

 科学技術研究費の支出も、効率性を考えすぎると、誰もが認めるような研究、開発にばかり予算が流れやすくなる。これは、科学技術の振興にマイナスである。一見すると効率性が悪い投資が、本当は効率性が高いこともある。科学技術研究費については、広く浅く支出する面と、特定分野に戦略的に投入する面とは、双方に理由があり、評価が難しい。ブレイクスルーは、誰も注目していないところから来ることも多いのである。研究の多様性を保つことも重要である。

 最も効率性が悪くなりにくいのは、科学者、技術者への直接投資と、民間企業の研究開発への減税等であろう。ただし、効率性が悪くなりにくいと言っても、効率性に対するチェックは必要である。

研究開発予算に25兆円というけれど、私の子供は、技術者で給料も悪いのよ。孫は、理系は待遇が悪いので、理系には進みたくないといっているわ。親を見れば分かるのね。もう一人の子供は、科学者になったけれど、アメリカに流出してしまったわ。日本はひどい国だと言い残して。25兆円もかけて、どうしてそういうことになるのかしら。そんなことなら、私の税金は、老人の福祉に使ってほしいわ。

IV.民間の失敗の危険

 優秀な科学者、技術者の年収1億円1万人計画について、民間による非効率が生じないかどうかについては、十分な検討が必要である。

 たとえば、自分の学会に所属する科学者を上記1万人にランクインさせるために、学会の論文賞の賞金をわざと高額にし、見返りに、後で受賞した科学者から、受賞金の分け前を学会が要求するなどの行為が考えられる。

 また、自社の技術者を上記1万人にランクインさせるために、技術者に対し職務発明対価を高額にして、見返りに、後で受賞した技術者から、受賞金の分け前を企業が要求するなどの行為が考えられる。

 これについては、受賞金の分け前をキックバックすることを法律で規制するなどの対処が必要であろう。科学技術の振興のためには、政府の失敗だけではなく、民間の失敗への対処も必要である。

 また、1万人にランクインされる見込みのある科学者、技術者にだけ、会社や学会が、職務発明対価や論文賞の額を増額し、そうでない科学者、技術者への支給を廃止ないし減らそうとする危険もある。まず、職務発明対価は、現行法上も、極端にそのようなことをするのは難しいであろう。そこそこの職務発明でも、ただで取得するというわけにはいかない。また、論文賞については、優秀賞だけ残して後は廃止するなども、学会の自由である。しかし、1万人にランクインされる見込みのない者にも論文賞により投稿を促進することが学会の利益になるとすれば、優秀賞以外を全部廃止することは考えにくいのではないか。

 本制度を導入するにあたっては、民間による制度の濫用が起こらないかどうかを十分検討する必要がある。 

技術者のA君は、1万人に選ばれるかどうか微妙だそうだ。我が社の名誉のために、職務発明の対価を少し上乗せしてあげないか。

それなら、A君のボーナスをその分減らす必要がありますね。

それはだめだ。1万人の選定にあたっては、確定申告書を、証拠として提出することになっておる。前年度よりボーナスが減っていたら、すぐにばれるぞ。

V.おわりに

 本稿では、科学技術の振興に向けて、科学技術予算の効率性の問題が重要であることを述べた。そして、科学者、技術者への直接投資の重要性について述べ、その例として、優秀な科学者、技術者の年収1億円1万人計画を、科学技術振興の秘策として述べた。そして、科学技術の振興には、研究費(金)や研究設備(物)への投資と、科学者・技術者(人)への直接投資のバランスが重要であることを述べた。

 科学技術の振興に役立つ科学者、技術者への直接投資の方法については、他にも色々なものが考えられる。いずれにせよ、科学技術振興の秘策として、科学者、技術者の社会的地位の向上に役立つ直接投資を行なっていく必要があるだろう。

VI.アンケート

 Q.あなたは、科学技術振興の秘策として、研究者・技術者の社会的地位向上のための人への直接投資(たとえば、優秀な科学者、技術者の年収1億円1万人計画など)に、賛成ですか、反対ですか? いずれかをクリックしてください。

 賛成。科学技術振興には、研究費(金)や研究設備(物)のほかに、研究者・技術者(人)への直接投資(予算投入)も重要なので、賛成する。
 
 反対。科学技術振興には、研究費(金)や研究設備(物)だけでよく、研究者・技術者(人)への直接投資(予算投入)は必要ないので、反対する。

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